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時計部屋の鍵と少女 5

 バチン。
 大五郎が言うと同時に、再び視界が暗くなった。また照明が落ちたのだ。天井を見上げて確認すると、天井に埋め込まれた照明のうちの半数が眠りについていた。

「急がないと。」

 私と大五郎は、一緒に一つずつ振りながらお目当てのカンカンを探した。

 一つ目のカンカンは中身が空っぽではないかと思うくらい軽くて、左右に振ると重たいゴンゴンという音がした。転がるというよりは、裏側から打ち付けられているような衝撃を感じて、なんだか不気味ですぐに手を離した。

 二つ目のカンカンは、とても小さいくせにずっしりと重たかった。左右に振ると砂のようにさらさらと流れる音がして、転がるというのとは随分違うようだった。

 三つ目のカンカンは手のひらに乗らないくらい大きくて少し温くて、左右に振るとたぷたぷという液体の揺れを感じた。

 このようにカンカンは見た目こそ似ているのに、全てが異なる個性を持っていた。これだけたくさんの個性の中から、本当に目的のカンカンを探し当てることができるのか。そもそも残された時間で目的のカンカンと疑われるカンカンに巡り会えるのか。巡り合うためには、一体あといくつのカンカンを振らなければならないのか。思考する時間すらも、もったいなく感じられた。

 再び照明が音を立てて落ちたが、私達はカンカンを振り続けた。天井の照明は最初の25%しか稼働していない。手元は大分暗かったが、カンカンを探すのに支障はなかった。しかし手にとっていないカンカンはまだまだある。私と大五郎は急ぎながらも、焦らずに一つ一つ手にとって振り続けた。

 バチン。
 ようやく半分くらいのカンカンを確認した頃だろうか。とうとう最後の硬い音が響き、天井に埋め込まれた照明は全てが休眠に落ちた。真っ暗な世界には、金魚の形をしたカンカンも、大五郎の姿も見えない。

「焦らないで。僕は暗闇に慣れて居るから、まだ探せるよ。」

 棚に伸ばしていた手に、冷たい金魚のカンカンとは違う、ふかふかとした柔らかいものが触れた。手探りで頭を見つけてぽんぽんと撫でる。見えなくても分かる。大五郎の頭だ。
 両手で大五郎の頭についた半月状の耳を揉んだ。私はまだ大五郎が私の部屋にいた時に、良くこうしていたものだった。

「ふふふ。くすぐったい。」

「すごく懐かしいね。」

 私は自分のほっぺたを大五郎のほっぺたにくっつけた。幼い頃よくこうやって大五郎の感触を確かめていたものだ。ふわふわの大五郎の感触は、幼い頃の私の、心の平静を保つのになくてはならないものだったし、今でもこのふわふわの持つ安心感は変わらないことがわかった。

「……大五郎、ちゃんとお別れできなくてごめんね。」

「ううん。僕の方こそ悲しませてごめんね。一緒に過ごせて本当に幸せだったよ。大切にしてくれてありがとう。」

 大五郎がほっぺたを押し返してくれた。ふにふにとした感触が自分の意志とは関係無しに頬を撫でる。それは幼い頃願っても叶うはずのない感触だった。

「……カンカンを探さないと。」

 惜しみながらも、大五郎を暗闇の中に下ろす。勿論手放したくなんてなかったし、今度こそずっと側にいてほしい。
 でもそれは望んではいけないことだと分かっている。駄々をこねた所で大五郎を困らせてしまうだけだ。
 分かっていたからこそ、私は自分から、大五郎から手を離した。
プロフィール

帝埜 やしる

Author:帝埜 やしる
 
好きな作家:
 村上春樹、森見登美彦

作品の内容:
・ローファンタジー
・夢で見た内容など

執筆中:
・くじらの夢
・時計部屋の鍵と少女
・時市

完結:
・背の高い刑事と傷の少ない
 犯人の話
・ワールドプラネット

短編:
・タッタカタン
・冬の香り
・砂浜で埋もれていた亀の話
・公演会と誕生日会
・Settle Down
・ガラスの外殻を持つランプ

即興小説トレーニング
・甲板の男
・死にかけの血液
・気付かない振り
・二つの朝
・夢

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