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ワールドプラネット 完

「ここ。 ここに立って。 ちょっと待ってて。」
 
 ジキの手が離れる。目の前にはなにも無い。私は部屋の真ん中に、ぽつんと立たされていた。
 
 ガチャン。ガチャン。ガチャン。ガチャン。
 
 重たい音が四回連続で響き、遅れて光が四段階を経て灯った。急に明るい世界につれて来られて、目がきゅっと痛む。涙が滲むのを感じたけれども、何度か瞬きをしたら痛みはすっと引いた。改めて部屋を見る。しかし私の眼前には、相変わらず何もなかった。
 
「ルイ、足元だ。」
 
 ジキの声が遠くで聞こえて、足元を見る。私が立っている地点を中心として放射線上に全方位に、赤から紫の間の色で絵が描かれていた。私は絵を踏まないように気をつけながら、たんと時間をかけてぐるりと絵を眺めた。その絵には法則がなかった。晩年のパブロ・ピカソのような力強い鮮やかさに、クロード・モネのような柔らかな美しさに、サルバドール・ダリのようなシュールリアリズムさがあった。おそらく作品としての完成度は高く、美術的な価値も高い作品に違いはないのだが、私にはこの作品が何を伝えたいのか聞き取れない。
 
「刺激を追うんじゃない。安寧を追うんだ。 ルイの安心する絵を読めばいい。」
 
 足を踏み出そうとしていた私に、ジキが声を掛ける。彼はいつの間にか私のすぐ隣にいて、いいながら彼は、私の手を握った。
 
「読む?」
 
「そう。 読んで欲しい。 僕は口が下手だから。」
 
 ジキがはにかむ。私は一瞬で理解して、再び足元へと視線を移した。
 
 赤と紫の間の色で描かれた絵の中の、安寧に守られた世界には、なんてことはない見慣れた風景が広がっていた。その風景に時折場違いな色が混ざって、その混色が私の脳内に言葉を紡ぐ。
 
『どうして話してくれなかったの。 会えなくて寂しかった。 本当は一緒に世界を廻りたかった。』
 
 世界が少し歪む。一旦私は顔を上げ、彼を見た。彼は眉を寄せて、目を赤くしていた。
 
『遠くにいても、常に想っているよ。』
 
『どこに居たって、君には帰る場所があることを忘れないで。』
 
『いつかかならず会いに行くから。』
 
『…………。』
 
 最後の言葉は、滲んでいてうまく読めなかった。わざわざ読まなくても、私には彼の伝えたい言葉が分かった。
 
「ありがとう。 ……私もだよ。」
 
 
 
 ワールドプラネットが全国ツアーを始めてから、幾年も経った。
 
 人類とリリハの共同作戦は無事成功し、私は今、絵を描いている。リリハ類からも、人類からも読み取る事のできる共通の言語を。この試みは人類にとってもリリハ類にとっても大変好評で、私が描いた言語を色彩が寸分も狂わないプリンターで印刷し流通させる計画まで発足したらしい。自分が起こした事なのにとてもすごい事なのだなと思う程度で、人類とリリハ類との橋渡しをしたという実感は沸かなかった。
 
 また、α宇宙域でのワールドツアーを終えた彼等は、アジアの小国に戻る事なく、β宇宙域へと進出したそうだ。なんでも、彼等が描き出す芸術は、人類同様リリハ類にも同じように写るらしいのだ。つまり彼等の芸術には、リリハ類の言語が一つも混ざっていなかったらしい。言われて見れば、彼等の作品には私が文字として認識するものはひとつもなかったような気がする。実はこれは結構難しいことなのだが、それを成した彼等を私は誇らしく思っている。
 
 加えて、これまで個人で作品を作っていた彼等が最近、三人で作り上げた作品を公開したという話を耳にした。その作品はとても美しく、魅力的で、哀しく、勇ましい。見る人によってまったく別の印象を与える絵なのだそうだ。そしてその作品には、私が作り出した言語と同じ仕組みを利用して、人類にもリリハ類にも判る言葉が描かれているらしい。落ち込んでいた心を救われた人や、難関に立ち向かう勇気を得られた人、心の穢れを洗い流されたなんて人もいるのだそうだ。このように読み取る言葉は個人によって様々で、また心境によっても変わるらしいため、何度見ても異なる印象を受ける絵として大変な評価を受けていた。それらの評判を聞き付けて、あるいは自分の求める言葉を見るために、わざわざ宇宙域を跨いで見に行く人類やリリハ類が出てきたなんて話もあるくらいだ。
 
 
 
 その絵には、タイトルとして小さな絵が添えられていた。赤と紫の間の色で描かれた、リリハの言葉で『愛』と読むこのとのできる絵であった。またその絵は人類にとっても文字として認識できる形をしており、人類の言葉では『ルイ』と書かれていた。

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プロフィール

帝埜 やしる

Author:帝埜 やしる
 
好きな作家:
 村上春樹、森見登美彦

作品の内容:
・ローファンタジー
・夢で見た内容など

執筆中:
・くじらの夢
・時計部屋の鍵と少女
・時市

完結:
・背の高い刑事と傷の少ない
 犯人の話
・ワールドプラネット

短編:
・タッタカタン
・冬の香り
・砂浜で埋もれていた亀の話
・公演会と誕生日会
・Settle Down
・ガラスの外殻を持つランプ

即興小説トレーニング
・甲板の男
・死にかけの血液
・気付かない振り
・二つの朝
・夢

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