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時計部屋の鍵と少女 4

 梯子を上がりきった先には、私にこの部屋への鍵を渡してくれた少女が言っていた通り、お宝が並んでいた。下からは見えにくかったが様々な年代の子供のお宝、おもちゃが所狭しと並んでいる。今はもうデパートで時折特設される駄菓子屋さんでしか見かけないようなものから、特撮ヒーローの変身グッズ、小物が可愛いドールハウス、異国で買ってきたのであろうお土産の品らしき人形やお面。どれもこれも個性的であって、普遍的であって、おそらくはだれかにとっての大切な宝物なのだろうと思われた。

「こっちだよ」

「え?」

 前方遠くから男の子の声が聞こえた。一応声のした方を注意深く見るが、やはり人影はない。私はお宝一つ一つを踏まないように気を付けながら、声の方へと進んだ。幸運にもおもちゃとおもちゃの間にはいくらか隙間があって、通路のようなものが出来上がっていたので、歩くのはそう難しくなかった。

 襖2枚分くらい歩いたところで、とあるものが私の目に入った。黄色い毛色をした、10cmほどのクマのぬいぐるみだ。私がそのぬいぐるみを手に取ろうと伸ばすと、そのぬいぐるみがぬっと動いて私の方を向いた。

「ひさしぶりだね。」

 言って、クマのぬいぐるみが小さくお辞儀する。それは私が幼い頃に常に傍に置いていたぬいぐるみであり、(小さいくせに)大五郎という名前がついていた。私は大五郎との遭遇に思わず手に取り抱きしめたくなったのだが、大五郎は伸びてきた私の手から一歩引いてそれを拒んだ。

「え?」

「……ごめんね。 本当は僕も一緒にいきたいんだけど、それはできないんだよ。」

 大五郎が申し分けなさそうに言う。私はとても残念だったけれども、彼がそんな言葉を言わなければならない心当たりがあった。幼い頃から大切にしていた大五郎は、何年か前の引越しの際に私の元を離れたのだ。新居でいくら荷を解いても、大五郎は出てこなかった。きっと荷物をまとめる際に、私の知らぬ間に、不要なものの仲間入りを果たしてしまったのだ。そのことを覚えていた私は、彼の意思に従って素直に手を引いた。

「そうだね。 でも、会えただけで嬉しい。」

「僕もだよ。 それより、時間がない。 早く探さないと。」

 言って、大五郎は座っていたところから飛び降りて、私の先を歩き始めた。

「金魚は確か、紅葉の上にあったはずだよ。」

「紅葉?」

「そう。 10月の『紅葉と鹿』のあたりだよ。」

「10月かぁ……。」

 私と大五郎はおもちゃを一個も踏まないように気を付けながら、早足で10月の襖を目指した。お宝の中には随所に大小様々な達磨があった。私達が達磨の傍を通るたびに達磨の目に墨が入り、先ほど会話した大きな達磨と同じしゃがれた渋い声で、私達に急ぐようにと言った。

 バチン。

 重たいレバーの落ちる音が響いた。広い空間にいるため一体どこから響いたのかはわからないが、天井の方から聞こえたような気がして天井を見る。天井は板張りされており、等間隔に丸い電球が埋め込まれていた。色の明るさからして、おそらく白熱電球ではなくLEDだ。その真っ白なLEDの一部が、ぽっかりと暗くなっていた。照明が落とされたのだ。おそらく達磨や、大五郎が言っていたのはこれのことなのだろうと理解する。

 貯蔵されたエネルギーは有限であり、もう時間がない。おそらくあの照明が全て落ちる頃には、私はここにはいられなくなるのだ。

「まだ大丈夫だから、焦らないで。 焦ってしまうと黒い靄がやってきて、余計に探し物をみつけられなくしてしまうんだって、昔教えてくれたよね?」

「……うん。 そうだったね。」

 探し物をするときに焦ってしまうと、黒い靄がやってきて、探し人をすっぽりと包み込んでしまう。そうすると探し人は決して探し物を見つけ出すことができなくなり、ようやく黒い靄が去った頃には、一体何を探していたのか忘れてしまう。

 私がまだ幼かった頃に、大五郎を抱きかかえながら読んだ絵本の話だ。なんというタイトルだったのか、探し人が一体何を探していたのかなんて、もう思い出すこともできない。しかしながらあの頃の大五郎のふかふかとした感触、温もりを私は確かに思い出していた。

 ヒヒィーーン。 キィーン。

 甲高い鳴き声が聞こえて足を止める。聞き慣れない声だった。しかし私の鼻孔には、嗅ぎ慣れた山の香りが広がっていた。積もった落ち葉を踏み締める蹄の、しゃくしゃくという音が自由気ままに移動する。

 大五郎はいつの間にか、幾重にも詰まれた棚の方へと歩みだしていた。木製の棚に、大小の赤が並んでいる。まさかと思い、慌てて駆け寄ると、大五郎はその棚の三段目へとぽんと飛んだ。

 大五郎の側には、そしてその棚の続く限りには、所狭しと金魚の形をしたカンカンが並んでいた。大小様々なくせにどれもおおもとの色は赤くて、同じような柄をしている。しかしながら全部が同じ柄というわけではなく、うろこにピンクが混ざっていたり、水色だったり、薄緑だったりしていた。また形も金魚型には違いはないのだが、顔がのっぺりしていたり、輪郭の凹凸がはっきりしていたりと、どうやら全て同じようで、一つとして同じ物はないようだった。

「それで、どんなカンカンなの?」

 大五郎は飛び乗ったところからさらに器用に棚を登り、私の目線と同じ高さまで移動してから言った。真ん丸の黒い目が、じっと私を見つめる。その顔はやはり幼い頃から見慣れた大五郎に違いはなく、話をするようになったとはいえ違和感はなくむしろ安心を得られた。

 私は目を瞑って、少女の言葉を思い出す。彼女は確か、カンカンについての説明を怠らなかったはずなのだ。

―――小さいけれど、ずっしりと重たくて、左右に振ると、中で転がるような感じがするはずよ。

「小さいけれど、ずっしりと重たくて、左右に振ると、中で転がるような感じ? って言っていた気がする。」

 目を開けると、大五郎が自分の背丈と同じくらいのカンカンを両手に抱えていた。そのカンカンを上下に大げさに振ると、中からはさらさらと砂の流れる音がした。

「なるほど。 一つ一つ振って確かめないといけないみたいだね。」

 言って、大五郎は困ったように首を傾げてから、両手に抱えていたカンカンを丁寧に棚に置いた。

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プロフィール

帝埜 やしる

Author:帝埜 やしる
 
好きな作家:
 村上春樹、森見登美彦

作品の内容:
・ローファンタジー
・夢で見た内容など

執筆中:
・くじらの夢
・時計部屋の鍵と少女
・時市

完結:
・背の高い刑事と傷の少ない
 犯人の話
・ワールドプラネット

短編:
・タッタカタン
・冬の香り
・砂浜で埋もれていた亀の話
・公演会と誕生日会
・Settle Down
・ガラスの外殻を持つランプ

即興小説トレーニング
・甲板の男
・死にかけの血液
・気付かない振り
・二つの朝
・夢

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