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砂浜で埋もれていたカメの話

 私は見知らぬ男性と一緒で、何らかの理由があって、動物園にいたネッタイチョウの卵を入手した直後だった。
 ニワトリの卵に比べたら頭が細くて、丸みも少なくて、大きい真っ白な卵だった。

「味見しますか?」

 飼育員の一人が尋ねる。どうするのと、私は男性を見た。男性は、足元に落ちていた尖った小さな石で卵の殻にヒビをいれて、一度中身を覗いてから中身を少しだけスプーンに出して、啜った。

「濃厚だね。」

 男性は一言、そう言った。

「おいしいんだ?」
 
 私は尋ねる。男性の言うことが、いまいち信用ならなかった。あまりおいしそうな顔をしていなかったからだ。

「まぁまぁだよ。 プリンに向くかもしれない。」

 私と男性は卵を持って、海へと向かった。今は丁度魚の産卵期らしくて、砂浜はリアス式海岸のように、ひどい有様だった。

「これ、波のしわざ?」

「波だけじゃない。 あいつらさ。」

 波に乗って、銀色の集団が浜へと押し寄せているのが見えた。太陽の光を浴びてきらきらと輝いていたけれど、数が多すぎて、波が黒い。怖くてぎゅっと目を瞑る。

 数秒後に、ぎゅいんと波が浜に衝突した。衝突による衝撃で、地面がぐらぐらと揺れる。じっとこらえていると、やがて揺れは収まり、浜は静寂に包まれた。目を開けると、波がぶつかった浜がスプーンで掬ったようにきれいに抉れている。こんなことが繰り返されれば、浜がこんな状態になるのも仕方ないなと納得した。
 
 ふと、どこからか、苦しそうな呻き声が響いた。どうやら抉れた浜からのようだ。私は浜の淵まで寄って、深さにしたら3メートルは抉られた場所を見下ろす。浜の底には、2メートルくらいの甲羅があった。

「え、ミドリガメ?」

 私は驚いた。それはウミガメでも、すっぽんでもなく、ミドリガメの甲羅に見えたのだ。
 真相を確かめるべく、私は浜の底に下りた。海は膝上くらいまであって、視界の端で、次の波が遠くに見えた。
 亀は甲羅から鼻先しか出していなかったが、パクパクと口を開閉していることから、生きていることがわかった。

「ちょっと。 次の波がきたら耐えられないわよ。」

 亀に話しかける。亀は頭をゆっくり出して、眠そうな目をゆっくり開けた。顔に赤い模様はない。どうやらミドリガメではないようだ。

「まさかこんなに深い所まで抉れるとは。」

 亀が喋った。流石に私は驚いて、亀から少し離れる。
 亀はゆっくりと甲羅から手足を出して、肢体をぴんと張った。多分、伸びたのだろうと思った。
 それからゆっくりと、甲羅をはがした。甲羅の中には、砂に塗れた30代の男がいた。

「やだ。 なにしてたの?」

 男に尋ねる。男は甲羅から出て、波で顔と腕の砂を洗い落としていた。

「亀だよ。 もう少しで、なれるんだ。」

 男はやれやれといった感じで、海を見た。私も海を見ると、波はすぐそこに迫っていた。

「亀になりたい。」

 言って、男は波に飲まれた。男の身体が完全に波に飲まれる前に、私にも波が到達した。



 目を覚ますと、ドーム状の屋根の下にいた。屋根といっても、布や木材でできているわけではなくて、ピンクや、紫や、紺色の宝石がちりばめられた黒い岩だ。洞窟のようでもある。
 良く見ると、鳩時計や、窓枠があった。窓枠はあるが、ガラスはない。枠の向こう側には、相変わらず岩肌が見えている。壁も勿論岩でできているのだが、そこには大きさがまちまちの絵画がいくつか飾られていた。一番小さいものは絵葉書サイズで、一番大きなものは60インチのテレビくらいあった。
 
 灯りは見当たらないのに、不思議と暗くは無かった。目が慣れたのかも知れない。
 大きな蜘蛛が、天井の岩肌を這いまわっている。岩肌は宝石の光をてらてらと返していた。濡れているのかもしれない。
 カリッと岩を引っかく音がして、蜘蛛が落ちてきた。足を滑らせた様で、着地はあまりうまくなかった。

「やだ。 蜘蛛嫌いなのに。」

 蜘蛛の背中には、漫画みたいなピンク色の小さい宝石がびっしりとついていた。気持ち悪いけれど、すこし綺麗だ。

「おかしいね。 亀は?」

 蜘蛛が話しかけてくる。さっきの例があるから、これも人間かもしれない。
 私は人間不信に陥りそうだと思って、自分の考えがおかしくて、笑いをこらえる。

「それは男でしょ。」

 私はなぜか、腰に手を当てて胸をはって答えた。怒っているわけではないのだが、傍から見たら蜘蛛に説教しているように見えるかもしれない。ふと、背後でカリーンという可愛い音がひびいいた。小さいガラスが割れたような軽い音だった。
 ぱらぱらと、肩に欠片が落ちてくる。天井を見ると、亀裂が走っていた。心なしか、地面が揺れているような気もする。

「あぁ、あぁ。 よかった。」

 蜘蛛が言った。私は一瞬で理解する。おそらくここはもう、不要になったのだ。逃げないと、崩壊に巻き込まれてしまう。私は走って、出口へと向かう。出口は4ヶ所あって私が向かっているところは、おそらく右腕だろうと思った。

 天井が崩れて、蜘蛛が潰れた。宝石が天井から落ちて、砕けて、可愛い音がいくつも響く。鳩時計もいつの間にか落ちていた。私の足元には、鳩時計から解放されたのであろう鳩が羽根をばたばたさせて口をパクパクさせていた。構ってられない。私は思い切り跳んだ。



 波の音が、すぐ目の前から聞こえる。私はゆっくりと目を開けた。
 砂浜にいた。世界は暗かったけど、天井は無い。いつの間にか、夜になってしまったようだ。
 ころんと足に何かがぶつかる。私は自分の足を見た。

「亀になれたのね。」

 私の足元には、小さな亀が一匹いた。ミドリガメだ。赤い模様も、しっかりとある。

「川まで運んであげようか?」

 私は尋ねた。ミドリガメはおそらく、海では生きていけない。
 けれども彼は、いそいそと波に乗り、やがて消えた。

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非公開コメント

No title

フラメント様

ありがとうございます。

案外世界はてきとうに造られているので、
いろんな不思議な世界や偽物の亀なんかが、
本当はそこら中に存在しているのではと疑ってかかる方がいいのかも知れませんよ。

No title

ふと 紛れ込んでしまう

こんなお話ボクは好きです

プロフィール

帝埜 やしる

Author:帝埜 やしる
 
好きな作家:
 村上春樹、森見登美彦

作品の内容:
・ローファンタジー
・夢で見た内容など

執筆中:
・くじらの夢
・時計部屋の鍵と少女
・時市

完結:
・背の高い刑事と傷の少ない
 犯人の話
・ワールドプラネット

短編:
・タッタカタン
・冬の香り
・砂浜で埋もれていた亀の話
・公演会と誕生日会
・Settle Down
・ガラスの外殻を持つランプ

即興小説トレーニング
・甲板の男
・死にかけの血液
・気付かない振り
・二つの朝
・夢

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