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背の高い刑事と傷の少ない犯人の話 1

 それは、ひどく蒸し暑い夜の事だった。
 大通りから一本それた道を歩きながらふと空を見上げると、背後のお祭りの喧騒なんてなんのそのといった様子で、ただ星が光っているのが見える。背後で小さく聞こえるお囃子は、この街で昔から行われてきたらしい伝統的な秋祭りの音だった。大きな山車を引いて大通りを練り歩き、太鼓や笛を鳴らしながら、他の山車とぶっつけをする。負けたら道を譲り、勝ったらその道を堂々と、ゆっくりと、敗者に勝者の風格を見せつけながら進む。
数年に一度の割合で行われてきたこの行事を幼い頃から何度も見て体験してきたが、たとえ何度目になろうとも、この数年に一度の喧騒に浸りに、足を伸ばしてしまうのだろう事は想像にかたくなかった。
 しかしながら、喧騒に浸りに来た所で、すぐに飽きてしまうこともまた想像にかたくはなかった。いや、飽きるというよりは単に疲れてしまうのかもしれない。なにせこのお祭りは人が多くて、大通りに沿うように立ち並ぶ屋台を見て回るだけでも一苦労なのだ。
 私が中学生の頃は、お祭りの喧騒に疲れる度に友人等と大通り沿いにある百貨店のゲームセンターで足を休ませ涼んだりもしたのだが、その百貨店はというと、もう何年も前から灰色のシャッターを下ろしたままだった。

「那須高原でおきた発砲事件には、AK-47という、ソビエト連邦で開発された古い銃が使用されたんだってね。 この事件はどうなの? 君が犯人?」

 ようやく喧騒から離れたというのに、まるで客引きを思わせる態度で言葉を紡ぐ声が、私の耳の安静を邪魔した。

「違うわ。」

 言って右折する。本当は真っ直ぐ進んだほうが近道なのだが、さっさとこの男から離れたくてわざと右折したのだ。しかしながらそんなに簡単にはまかれてくれるはずもなく、彼は真っ直ぐ進みかけた道を無理やり右折して、再び私の隣にくっつくようにして歩きはじめた。

「じゃあ、中国であった惨殺事件は? 盗難された中国警察のガトリングガンを用いての快楽殺人的な惨い事件だったらしいけど……」

「そんな、センスのないもの、使わない。」

「センスない、かぁ。 確かにセンスはないかもしれないねぇ。 やっぱり無駄撃ちは嫌い?」

「さぁ、どうかしらね。」

「ふうん。 でも、センスないのは嫌いなんだ?」
 
「そうね。」

「そのワンピースはセンスあるね。 クリスチャンディオール?」

「そうよ。 ……えっ?」

 返事をしてから、彼の言葉の不可解さに気付いた。
 胸元のリボンで白と黒とにきっちり分けられたキャミソール型のワンピースは、確かにクリスチャンディオールの物だ。クリスチャンディオールに間違いはないのだが、彼がそれを知っている事に対して不可解だという思いしか沸かなかった。彼が一流企業の営業マンであり、愛妻家であるならまだ分かるかもしれない。しかしながら彼は刑事で、左手の薬指には結婚指輪らしきものは見られなかった。仕事の間だけ婚約指輪をはずすという人もいると聞くが、彼はまだ若い。若い青年が結婚をしていたとしても、熟年ということはありえないだろう。新婚とそうかわらない人がわざわざ婚約指輪をはずして仕事に挑むだろうか。私がもし彼の妻であるならば、そんな背徳的な事をするなんて、と怒りに震えるかもしれない。故に、彼が私の着ているワンピースのブランド名を知っている事が、とても不可解で仕方なかった。

「……どうやって調べたの?」

 知っていそうもない彼の口からクリスチャンディオールの名が出たということは、おそらく何らかの手段を用いて調べたのだろう。ついでに私に対する何らかの事柄についても調べたかもしれない。そう思うと、とてもじゃないが気分がいいとは言えなかった。

 そんな私の心情とは裏腹に、彼はどこか誇らしげな表情をしていた。ぽてっとした口の端をきゅっと引き上げて、黒縁眼鏡を指の腹でくいっと上げた。
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背の高い刑事と傷の少ない犯人の話 2

 190cmはあろうかという高身長に、屁理屈っぽいぽてっとした口。顔だけで判断すればまだ20代半ばというところだろうが、白髪が混じりすぎてやや灰色に見える、軽く天然パーマの入ったもじゃもじゃの髪のせいでやや老けて見えた。
 蒸し暑いというのに黒の長袖シャツを着込み、同じく黒の細いジーンズを履いている。シャツには銀色の細い糸でストライプのラインが入っていた。結構オシャレには気を使うタイプなのかもしれない。

「クリーム色のフィガロ。 君のだろ?」

 言って、彼は笑って見せた。

「……どうやって見つけたの?」

「どうやってもなにも……」

 私の問いに、少し困ったような顔を浮かべて笑う。それは歳相応の青年を思わせる表情で、嫌な気はしなかった。

「事件の起こった現場の最寄駅前駐車場に、事件の起こった日から駐車されっぱなしの料金未払いの車があったら、誰だって怪しいと思うさ。 そうだろ?」

 それもそうだ、と思った。事件のあった場所からそう遠くない場所に放置されていた車というだけでも怪しいのに、事件当日からあるともなれば益々怪しさを増す。彼が初めて私の前に現れて「君が犯人かな?」なんて声を掛けてきた時は、一体何を根拠にと思ったが、車を見つけ、車が放置されていた駐車場の監視カメラから私を見つけ出すことは不可能ではなかった。
 しかし車が特定されたからといって、困る事などない。
 私が車の中に置いてきたものは、せいぜい今着ているワンピースのレシートと、紙袋くらいだ。私の車なのだから毛髪や指紋といたものはたくさん見つかるだろうが、彼が探している物は絶対に見つからない。
 だからこそ彼は、私を犯人であると知っても尚逮捕できずにいた。

 北軽井沢山荘銃殺事件。私と刑事である彼とを繋ぐ事件は世間で一般的に、そう呼ばれている。
 現場は山間部にある小さな山荘。遺体は4体。身元不明の3歳から4歳程度の子供の遺体と、男三人の遺体だ。男の身元は皆割れており、一人は地元の動物病院で獣医をしていた谷中真、もう二人は隣県の大学病院で研究の傍ら学生等に教鞭を振るっていた助教授の原田雄一と澤田敏光だ。4人の遺体は共に銃殺された痕跡が残っており、現場からもアサルトライフルと思われる薬莢がいくつも発見された。
 しかしながら山荘は放火されており、犯人の手がかりとなりうるものは現場に落ちていた薬莢のみ。これが米国ならば犯人の特定もまだ難しくなかったのだろうが、ここが日本であるがためにそうも行かないようで、事件が起きてから悠に一週間は過ぎているにも関わらず、未だ使用された銃器の特定すらできていないようだった。

「それで、お目当ての物は見つかったの?」

 私は彼を見上げて尋ねた。彼は再び困ったような顔をして、私の顔を見下ろしていた。

「それは、絶対に見つけられないだろうという自信の表れかい? それとも無能な僕に対する当てつけかな。」

 今度は私がふっと笑って見せた。

「そんなんじゃないけれど、絶対に見つからない自信はあるわね。」

 言って、止めていた足を進める。

「その態度自体が、僕へのあてつけそのものじゃないか……。」

 足を動かす様子もなく呟いて落胆を含む深い溜息をついていたが、まだ私から聞きたいことがあるらしい彼は長い脚を利用して簡単に私に追いつくと、再び沿うようにぴったりと隣について歩きはじめた。

背の高い刑事と傷の少ない犯人の話 3

「こんな事を言うと失礼かもしれないけどさ。」

 歩幅の小さな私に合わせて、どこかぎこちない様子で歩く彼を横目でちらりと見る。

「君の起こした事件以降、草加、前橋、佐野といった周辺各地で、同じような事件が起こってるだろ? いや、同じようなって言ったらホント失礼かも知れないけど、君が三人の医師と身元不明の幼児を銃で殺害したように、銃器による殺人事件というのが多発している。」

「……それで?」

 私の隣を歩く彼は、頭の中に詰め込まれた資料を脳内で捲っている様子で、地面に視線は向いているものの、どこか違うところを見ている様子だった。
 それはつまり、彼がようやく私に見せた、初めての隙らしい隙だった。
 私の左隣を沿うように歩く彼からは死角の、私の右太ももにベルトで固定されたナイフホルダーからナイフを抜き取って右手に構える。

「本当に、失礼を承知で尋ねるけれど……。 これらの事件も、君が引き起こしたのかな?」

 言って、彼が私の顔を覗き込んだ瞬間を見計らい、私はナイフの刃先を彼ののど元に当てた。

「なっ……」

 隙だらけだった表情は一変し、眼下で銀色に光るナイフを睨む。しかしながらナイフから私に視線を向けたときの彼は、今までに何度も見せてきた、困ったような表情をしていた。

「……驚いたな。 一応さ、僕は君が武器を持ち歩いていないのを確認してから声を掛けたんだよ? なのに一体、どこにそんな危ない物隠し持ってたの?」

 言いながら、控えめに両手で降参のポーズを取る。私よりもおそらく年上で、そして何十センチも背の高い男の人が無抵抗にそのポーズを取る様は、無様で滑稽なのは勿論のことなのだが、なんだか呆れにも似た悲壮感があった。

「隠してなんかいないわよ。 でも、あなたには見つけられないわ。」

「……絶対に?」

「そうね。 絶対によ。」

 答えて笑う。つられて、彼も少し笑った。

「じゃあ、もしかして今も、その小さい身体のどこかに大きなアサルトライフルを隠し持ってたりするのかな?」

 彼の問いに、のど元に当てていたナイフを少しだけ強く当てることで答える。

「じょ、冗談!! 冗談だから、ホント……。」

 彼の身長が高すぎてうまく加減ができなかったらしく、どうやら私は本当に彼の首を切ってしまったらしかった。ナイフ先の切り口から生まれた暖かい血液が、ナイフを伝って私の指を濡らし、雫となってコンクリートの上にぽたりと落ちる。彼も本当に切られるとは思っていなかったらしく、先ほどまでとは打って変わって、瞳には不安と恐怖の色が垣間見えた。

「……あんまり、馬鹿な事ばかり言っていると殺すわよ?」

「はい、言いません、もう……多分。」

 とても曖昧な返事ではあるが、多分、と付け足すほど馬鹿正直な人なのだと思うと、気を張っている私の方が無駄に気力を散らしているようでなんだか阿呆らしく思えた。私は静かに彼ののど元からナイフを退けて、構える訳ではなく、右手に握る。
 ナイフでのど元を切られる心配がなくなったことに安堵したのか、彼は少し私から離れた所で身体をこちらに向けると、その瞳をまっすぐこちらに向けた。見つめ返すことなどできる訳もなく、視線を下げていく。すると私の頭よりも高い位置にある彼の首元に、私から見て右肩上がりの一直線の赤いラインができているのが見えた。

背の高い刑事と傷の少ない犯人の話 4

 右手に握っていただけのナイフを、蒸し暑い夏の夜空へと放り投げる仕草を取りながら気付かれないように太もものホルスターに仕舞う。空だった太もものホルスターには確かに、先ほどまで私が手に握っていたナイフがきっちりと収められていた。しかしながら、空へと向けて開かれた私の手のひらには、月明かりを受けて銀色の光を跳ね返すナイフがあった。
 手から放たれたナイフはくるくると回転しながら蒸し暑い夜空に浮かんだ。そろそろ高度を増すためのエネルギーも底をつき、重力に負けようかというところで、ナイフは銀色の光を四方八方に乱反射させながら、粉々に砕けて、更に小さな粒子となって、やがて消えた。
 それはさながら、小さな花火の様だった。本物の様に大きな閃光と爆発音を伴いこそしなかったが、銀色の光を円状に放ちながら散る様はとても奇麗で、祭りの終わりを締めくくるにはいい演出であると言えた。
 ふと男の方を見ると、呆気に取られた様子で未だ宙を眺めていた。ナイフの再出を待ったところで再び姿を現すはずなどなく、またなにかが弾けて消えるわけでもない。ただ蒸し暑い夏の空気と、遠くに光る小さな星を確認できる程度であった。

「これが、君の自信の根拠か。」

 ようやく虚空から視線を戻した男はどこか納得がいった様子で、少し困ったような笑みを浮かべながら言った。
 彼の言う通りだった。彼の探しているもの、つまりは北軽井沢山荘銃殺事件の凶器には、先ほど宙に放ったナイフと同じ力が働いているのだ。この力が働いている限り、彼に凶器を見つけることなどできないだろう。勿論彼だけではなく、私を除いた全ての人に対して。この力が働いている限り、北軽井沢山荘銃殺事件の凶器が見つかる事はないのだ。永遠に。
 しかしながら、この力が永遠に働き続けるという自信はなかった。勿論、私が生きている限りはこの力を使い続ける。使い続ける事は、始めこそ慣れが必要とされたが、今の私にとってはそれほど難しい事ではなかった。しかしながら生きてい続けるということは、あまりにも難しい。普段人の死に触れずに生きている人にとっては、生きることが難しいと思うことはないだろう。しかしながら今の私には、それはひどく難しい事のように思えた。いや、逆なのかもしれない。人が死ぬというのは、想像よりも遥かに容易なのだ。

「全く、一筋縄ではいかないと思ってたけど、それにしたってこれはあんまりじゃないか。」

 屁理屈っぽいぽてっとした顔は、相変わらず困ったような笑みを浮かべていた。白髪が混じりすぎて灰色に見える髪をしていても、屁理屈っぽいぽてっとした表情をせずにこの表情だけを浮かべていれば歳相応に見えるのにと思う。そのくらい、その困ったような顔は、どこか幼い子供を思わせるような、愛らしさのようなものを含んでいた。

「判ったでしょう? あなたがどんなに私に付き纏った所で、何も見つけられやしない。 それどころか、私は常に武器を持っているのだから、簡単にあなたを殺せるわ。 でも理由も無く人を殺す程落ちぶれているつもりもないわ。 だから、あなたを殺す理由ができる前に……」

「残念だけど、それは約束できない。 僕には事実を突き止める義務があるからね。」

 私が言い終えるのを待たずに、彼は言った。ふと彼と目が合って、領域を犯された猫のように受け流すように視線を反らす。私はこうやって、真っ直ぐに物事を伝えるような人がひどく苦手だった。純粋すぎて、真面目すぎて、見てはいられない。人間というものは、常に人を傷つけながら生きている生き物なのだ。彼は傷つきはしないのに傷付けている事に気付いているような人間で、要するに、一番苦手なタイプだった。一緒にいると気を使われているようで何かが気に障る。しかしながらその気配があんまりも微量に常に付き纏うから、腹を立てることもできなかった。

「……自分の命よりも義務の方が大切なの? あきれた人ね。 そんなんじゃ本当に、いつか命を落とすわよ?」

「構わないさ。」

 彼はジーンズの左右の後ろポケットに左右の親指のみを突っ込むと、軽く空を仰いだ。湿った空気は拭われないものの、どこからか吹いてきた生暖かい風が、さやさやと柳の葉を揺らす。話す言葉を頭の中で整理し終わったらしい彼は、両の親指をジーンズの後ろポケットにつっこんだまま、私と同じく柳の葉のさやさやと揺れる音に耳を傾けているようだった。やがて風が止み、葉の揺れる音が止んだ。彼はつっこんだままだった両の親指をジーンズの後ろポケットから出してこちらを向いて、それからようやく、ぽてっとしたその口を開いた。

「君がどうやって凶器を隠しているのかとか、その凶器が一体なんなのかとか、そういうのも勿論興味はあるよ? でもね、まずは事件の真相を突き止めないといけないと思ってる。 事件の真相っていうのは、凶器がなんだったとか、どこにどうやって隠していたとか、そういうことじゃなくて、」

 ここまで一息で言った彼だったが、なぜかそこでぴたりと言葉を紡ぐのをやめてしまった。思わず彼の顔を見上げると、黒縁眼鏡の奥の瞳は、真っ直ぐにこちらを見ていた。

「どうして君が四人を殺さなくてはならなかったのかを知りたいんだよ。 死人に口無しなんて言うけどさ、殺された人間は恐らく、殺されるだけの事をしてきたんだと思うんだ、僕は。 確証はないけどね、君には、被害者を殺さなくてはならない理由があったんじゃないかと思ってるんだ。」

背の高い刑事と傷の少ない犯人の話 5

「……残念だけれど、あなたが望むような正統な理由はないわ。」

「それはどうかな。 正当かどうかは、事件の背景を全て理解した上で僕が勝手に判断することにするよ。」

「背景も何も……」

「まぁ、君が何を言ったって僕は引かないよ。 付きまとわれるのは嫌だって百も承知だけど、君が全てを話してくれないことには付きまとうのをやめない。 それこそ、僕が死なない限りはね。」

 奥二重の更に奥の真っ黒な瞳は、ただ真っ直ぐに私を見ていた。彼は気付いていたのだ。私には彼を殺すつもりなど微塵もない事に。そうでもなければ「僕が死なない限り」なんて言葉は出て来ないはずである。
 それはつまり、私に対して絶対に殺される心配はないという信頼を寄せているということになる。出会って数日、殺人の容疑者とその事件を追う刑事という関係ながら、彼の中での私は信頼関係を抱くにたる存在であるらしかった。

「まぁ、今日の所はそろそろお暇するよ。 あんまりしつこくして、切り傷を増やしたくないしね。」

 苦笑しながら言って、彼は私がナイフで切り付けてしまった傷に触れた。それから傷に触れた指先を確認するように見て、安堵の溜息をついた。傷は既に塞がっていたため、彼の指先を濡らさなかったことに安心したのだろう。

「それじゃあ、また近いうちに。」

 くるりと私に背を向けて、軽く手を振る。それから両手の親指をジーンズの後ポケットに突っ込むと、彼は少しの間止まったままだったが、やがてポケットから指を抜いて歩き出した。ふらふらと、しかしながらどこか目的地に向かってどんどん歩を進めていく。
 彼の姿が完全に見えなくなるまで見送ってから、私もようやく、帰路についた。



 右手側にしばらく続いた高さ二メートル弱の漆喰の壁を角に沿って右折すると、自宅と広い庭をぐるりと囲む漆喰壁の小さな途切れ目である裏口が見えてくる。通い慣れたこの道をただいつものように進んでいた私は、角を右折して裏口の姿を視界の内に認めるよりも前に、あるはずのない物に目を奪われた。
 裏口に寄せて、一台の車―――淡いクリーム色の車体に、レトロ感を前面に押し出した愛らしいフォルムのツードアオープンカー―――が停められているのだ。私の愛車と同じ、クリーム色のフィガロが。

 なぜ、駐車場に放置したフィガロがここに?
 パニックで、一瞬にして頭の中が真っ白になる。しかしながら、真相たるべき人物が愛車のすぐ隣にいる事に気付いたことで、すぐに冷静さを取り戻すに至った。さも当然と言うべきか、愛車の隣には、私を付けまわす高身長で天然パーマで、屁理屈っぽい顔の黒縁眼鏡の刑事が立っていたのだ。
 考え事をしているらしく、両手の親指をジーンズの後ポケットに突っ込んで、靴で地面を突っつきながら、どこか虚空を眺めている。やがて私の気配に気付いたらしい彼は、ポケットから両手の親指を出してこちらを向くと、先ほどと同じような軽い感じで、手を振ってみせた。

「やぁ、また会ったね。」
プロフィール

帝埜 やしる

Author:帝埜 やしる
 
好きな作家:
 村上春樹、森見登美彦

作品の内容:
・ローファンタジー
・夢で見た内容など

執筆中:
・くじらの夢
・時計部屋の鍵と少女
・時市

完結:
・背の高い刑事と傷の少ない
 犯人の話
・ワールドプラネット

短編:
・タッタカタン
・冬の香り
・砂浜で埋もれていた亀の話
・公演会と誕生日会
・Settle Down
・ガラスの外殻を持つランプ

即興小説トレーニング
・甲板の男
・死にかけの血液
・気付かない振り
・二つの朝
・夢

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