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時計部屋の鍵と少女 6

「わぁ!」

 平らな棚に下ろしてあげたかったのだが、所狭しと並んだカンカンのうちの一つに丁度降ろしてしまったらしい。大五郎がぽてっという可愛らしい音を立てて尻餅ついたのが分かった。

「ああ、ごめんね。」

 とっさに大五郎を降ろした辺りに手を伸ばす。私の指先はふわふわの大五郎ではなく、硬いカンカンを撫でた。

 そのカンカンには温度がなかった。冷たくも暖かくもない。本当に触っているのかも疑わしいくらいだ。しかしながら指先で突くと、カン、カンと硬い音が響いた。持ってみると私の手のひらにすっぽり収まるくらいの大きさしかなかった。小さい割にずっしりと重たくて、隙間無く砂が詰まっているような印象を受けた。

「……見つかった?」

「……まだわからない。」

 私は手にしたカンカンを、大きく左右に振った。隙間なく砂が詰まっているような印象を持っているので、振ったところで音がなるとは思えない。しかしながら私の予想に反して、ビー玉のような堅い何かが、ころころと缶の中を転がる感触があった。

「!! これ、かもしれない……!」

 私の手の中にあるカンカンは、私の手の中にすっぽり収まるくらい小さくて、砂が詰まっているかのようにずっしりと重たくて、左右に振るとビー玉が転がるような感じがした。またあの子は探し出して欲しいカンカンについて暖かいとか、冷たいとか、そういう温度に関することは言っていなかったように思う。私の手の中にあるカンカンには丁度温度がなかった。

「うん。 きっとこれだと思う。 見つけたよ、大五郎。」

 大五郎を降ろしたあたりに声を掛ける。

「……大五郎?」

 再度呼びかけるも返事はない。私はカンカンをもっていない方の手で大五郎を降ろした辺りを探ろうと手を伸ばすが、なににもぶつからない。私の目の前にあったはずの棚がない。無くなってしまっているのだ。

「え?」

 もしかしたら私が思っているよりももっと遠くにあるのかもしれない。私はそっと右足を踏み出した。何にもぶつからない。続いて左足を踏み出す。やはり何にもぶつからない。

 思い切って左腕を左右に大きく振り回してみるが、やはりなににもぶつからない。私はいつのまにか、宝物の詰まった部屋からはじき出されて、ただの闇の中に放り出されてしまったのだろうか。

 途端に、例えようの無い恐怖が私の身を包んだ。照明が全て落ちてからそれなりに経過しているが、先ほどまでは大五郎が側に居てくれた。でも、今は一人だ。大五郎は居ない。それにここには何も無い。自分の体の他は、無なのだ。自分の体すら曖昧で、手のひらを顔の目の前で広げてみても何も見えなかった。自分の鼻に触れてはじめて、指と鼻の存在を確かめることができるくらいの闇なのだ。
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プロフィール

帝埜 やしる

Author:帝埜 やしる
 
好きな作家:
 村上春樹、森見登美彦

作品の内容:
・ローファンタジー
・夢で見た内容など

執筆中:
・くじらの夢
・時計部屋の鍵と少女
・時市

完結:
・背の高い刑事と傷の少ない
 犯人の話
・ワールドプラネット

短編:
・タッタカタン
・冬の香り
・砂浜で埋もれていた亀の話
・公演会と誕生日会
・Settle Down
・ガラスの外殻を持つランプ

即興小説トレーニング
・甲板の男
・死にかけの血液
・気付かない振り
・二つの朝
・夢

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